自然に寄り添い、暮らしに寄り添う設計

「建築における唯一の正しい目標は、自然に建てるということだ。やりすぎてはいけない。」という言葉があります。フィンランドの建築家アルヴァ・アアルトの残した名言です。この言葉には続きがあり、「正当な理由がない限り何もすべきではない。余計なものはすべて時間とともに醜くなる。」とも言っています。時間軸の中で建築を深くとらえていたアアルトの哲学に感銘を受けました。

自然に建てるとはどういうことでしょうか?それは「自然に寄り添い、暮らしに寄り添う設計」だと私は考えています。「寄り添う」という言葉の意味は「相手の気持ちを汲み取り、自分の心を寄せていくこと。」だそうです。普段の私の設計はまさに寄り添うことで、建主の言葉の奥にある想いに共感し、敷地から聞こえる無言の声に耳を澄まし、これからの暮らしに思いを馳せることです。そして「寄り添う」ことで見えてくるカタチをいつも探しています。

「性能」を生かす「パッシブデザイン」

住宅や施設において「性能」が大切なのは言うまでもありません。特に近年は地球環境と健康の観点から「温熱性能」が重要視されています。私も省エネ性能研究会に参加して最新の技術と動向を日々勉強しています。

また一方で省エネ技術に頼った建物は、閉じた箱となり周辺環境との関りが希薄になりがちです。人が健康と感じる要素には、自然や社会との関りが必要不可欠です。こうした矛盾を解決するのが「パッシブデザイン」です。

風や光や太陽熱を上手く建物に取り入れて利用するデザインを「パッシブデザイン」と言います。実際には日照シュミレーションなどを行い、夏冬や時間毎の日差しの入り方を検証して設計にフィードバックしています。

性能を担保する「技術」と自然を利用する「パッシブデザイン」のハイブリッド設計に取り組んでいます。

「敷地」を生かし「コミュニティ」の余白をつくる

「コミュニティ」が人の健康に大切なことは、コロナ禍において誰しも実感したことだと思います。井戸端会議とは良く言ったもので、その昔は町の中にコミュニティの場がありました。また住宅においても縁側があり、玄関とは違った人と人の交流の場になっていました。現在の町や住宅にはこうした余白が無く、コミュニティが生まれにくい状況にあります。

敷地という限られた範囲で設計をする訳ですが、その敷地に如何に余白を残すかを大切にしています。建物と町との間に余白があることで、建物を開き易くし、アウトドアスペースができます。

こうした「コミュニティ」の余白をつくることも設計において大切なことです。

 

木や自然素材を生かした空間

木はもちろん、土や石など出来るだけ自然な素材を使いたいと思っています。それは自然素材の方が表情が豊かで、経年変化を通して美しくなるからです。そして何よりも五感で感じられる心地良さがあります。

自邸では杉の無垢材を床、壁、天井に使っています。これは子供たちに五感通していつも自然を感じ、のびのび育ってほしいと考えたからです。嗅覚は記憶に残ると言います。いつか巣立って帰郷したときに、実家の匂いと記憶と結びついたらと、今から想いを膨らませています。

二宮のオーガニックレストランの設計では、八ヶ岳の契約農家の土を使っています。実際に農家に土を採取しにいき、現場で左官屋さんが土壁や三和土にして仕上げました。食材の始まりから料理になるまでの時間を空間に表現しています。

自然素材を生かした空間はどこか懐かしい雰囲気が漂います。これも「自然に建てること」のひとつだと考えています。